石油化学産業とアジア
ウェーバー・シャンドウィックのAPAC Intelligence Bulletin(アジア太平洋地域情報速報)では、毎週、アジア太平洋地域の産業分野や市場を方向付ける重要な動向をお伝えしています。
- ロシア・ウクライナ戦争の影響により、アジア太平洋地域に既存する、石油化学工業に必要な資源への需要が大幅に増加しています。
- 紛争発生前から、石油化学業界は気候変動問題への対応に追われていたこともあり、アジア太平洋地域の石油化学産業は急速な変化を余儀なくされています。
- グリーン水素やバイオ燃料といった持続可能なソリューションの可能性が、この地域全体に様々な変化をもたらしています。
- 石油化学部門の成長は、イノベーションを促進するという評判面での利点に加え、アジア太平洋地域の経済成長に大きく貢献する可能性も秘めています。
アジア地域では、ロシア・ウクライナ戦争や深刻化する気候変動の影響により、石油化学産業が再構築されつつあります。政府や企業は、各国の市場に十分な石油や関連資源を供給できるよう尽力しています。その一方で、気候変動の影響を緩和するための新たな解決策や資源を模索する動きも活発化しています。
限界への挑戦
そのため、地域全体の石油化学部門は、既存と将来の両方の解決策に多額の投資を行っています。例えば、インドの石油精製施設の2022年3月における稼働率は105%でした。同時期に、オーストラリアの石油精製所では50%以上の増益を記録した所もあります。また、シンガポールにあるコンビナートは最近、過去最高の輸出価格を記録しています。
しかし、アジアの石油化学工業の生産能力だけでは、域内への供給を維持することができないと専門家の間では危惧されています。アジア地域に関する出版物によると、ロシアの資源なしでは、アジアは石油とガス不足に直面する可能性が高いと、貿易業者や精製業者が指摘しています。最近では、中国最大規模の石油精製一体化プロジェクトが稼働開始したこともあり、アジアへの新たな投資によって、そのような不足の事態が抑えられることが期待されています。
新たな解決策に向けて
既存の取り組みへの投資と並行して、政府や企業は新しい解決策にも率先して着手しています。あるグローバル石油化学企業は、2023年までにシンガポールを世界有数の持続可能なジェット燃料の製造国として確立する予定です。ニュージーランド政府は2021年12月、国の運輸業界に対して「持続可能なバイオ燃料の義務化」を実施すると公約しました。
石油化学産業のサステナビリティへの貢献といえば、グリーン水素が代表的なものでしたが、アジアでは多様化が進んでいます。インドのベンチャー企業は、海藻からバイオ燃料を製造する計画を進めているところです。オーストラリアでは、ある地方自治体が、南半球で初となる、人間の排泄物からバイオ燃料を作る設備を開設し、年間推定6,000トンの二酸化炭素排出量を削減することを可能にしました。
費用対効果の分析
この激動の時代を切り抜けることで得られるメリットは多岐にわたります。燃料不足の解消や二酸化炭素排出量の削減は、経済的な回復力と風評被害の両面から大きな利益をもたらす一方で、石油化学産業の成長は、アジア太平洋市場の経済成長を大きく促進させる可能性も秘めているのです。
韓国の石油化学部門の売上高は過去1年間で40%以上急増し、2022年第1四半期において同国で2番目に収益性が高い部門となっています。世界の石油化学産業は、10年以内に8,880億米ドルの規模になると予想されています。インドの石油化学産業は、今後10年間で世界の成長率の10%を占めると予想されており、政府は石油化学産業の発展に積極的に投資しています。
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この報告書はウェーバー・シャンドウィックのインサイト&情報チーム(シンガポール)が作成したものです。
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