食料安全保障とアジア太平洋地域
ウェーバー・シャンドウィックのAPAC Intelligence Bulletin(アジア太平洋地域情報速報)では、毎週、アジア太平洋地域の産業分野や市場を方向付ける重要な動向をお伝えしています。
- インフレの影響で食料価格が上昇し続けているアジア地域では、消費者ならびに政府が食糧不足の長期化を懸念し対策を講じています。
- 政府の直近の対応は輸出規制が主流ですが、各方面からは更に踏み込んだ対策が求められています。
- アジア太平洋地域は、特に肥料や家畜飼料の供給に関する問題に悩まされており、世界的な食糧不足の要因にさらに拍車をかけています。
- この地域の複数の市場において、消費者は食料コストを軽減するために共同菜園のようなコミュニティ型の解決策に着目しています。
国際食料政策研究所の最新の報告書によると、世界人口の4割が十分な栄養価のある食事をとることができないことが明らかになっています。国連の食糧農業機関(FAO)の4月の報告によると、53の国・地域で1億9300万人が危機的レベルの急性食糧不安に陥っていることが分かりました。アジア太平洋地域では、各国政府が食糧不安のリスクを抑えようと懸命に取り組んでいます。
さまざまな制限措置
インドネシア、インド、マレーシアの各政府は最近、国内の食料安全保障を強化するために輸出禁止政策を実施しています。インドネシアはパーム油の輸出を制限し、マレーシアは鶏肉の輸出を制限し、インドは小麦の輸出を制限しました。ただし、インド政府は他国の食料安全保障を目的とした輸出は許可すると強調しています。
このような政策は、さらなる混乱と批判を招いています。国連安全保障理事会およびG7フォーラムの代表者たちは、インドの輸出禁止に批判の声を上げています。シンガポールの飲食店や露天商からは、マレーシアの鶏肉輸出禁止に懸念が寄せられています。経済学者やシンクタンクは、インドネシアの輸出禁止措置はアジアにおける食糧不足と物価上昇を悪化させるだけだと主張しています。
その一方で、消費者や業界団体は、政府に対してより積極的な介入を要求しています。ニュージーランドでは、調査対象となった消費者の4分の3が、食料品に対する物品・サービス税の撤廃を支持しています。マレーシアの消費者団体は、食品輸入の許可要件を撤廃するよう政府に要請しています。また、日本においては、低所得世帯に対する補助金支給を求める声がメディア関係者から上がっています。
複雑な供給体制
アジア太平洋地域での主な懸念事項の1つは、必要な食糧インフラの面で不足が生じる恐れがあることです。具体的には、肥料や、(小麦などの)主要な飼料原料が不足すると言われています。フィリピンでは、主要な肥料原料の価格が過去1年間で3倍に上昇し、肥料の販売量と作物の収量の両方が減少したと言われています。農家の人々によると、マレーシアの鶏肉不足の一因には、飼料コストの上昇があると指摘しています。
コミュニティ主導の解決策
従来のように食料品を買うことが困難になってきた消費者の間では、コミュニティ主導の解決策にさらなる関心が集まっているようです。ニュージーランドのある家族経営の農園では、300個以上のカボチャを生産し、周囲のコミュニティに提供しました。オーストラリアでは、地元の園芸グループが最近60本の果樹を植え、地元の人々を支援しています。インドのある大学では、最近、栄養不足対策として、個人および共同菜園を活用するためのオンラインセミナーを開催しました。
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この報告書はウェーバー・シャンドウィックのインサイト&情報チーム(シンガポール)が作成したものです。
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