国連プラスチック決議とアジア太平洋地域
ウェーバー・シャンドウィックの APAC Intelligence Bulletin (アジア太平洋地域情報速報)では、毎週、アジア太平洋地域の産業分野や市場を方向付ける重要な動向をお伝えしています。
- 先日開催された国連環境総会では、175カ国の代表がプラスチック汚染をなくすための歴史的な決議案に賛同しました。
- この決議には、2024年までに国家間で法的拘束力のある協定を結ぶという公約が含まれています。
- この決議では、プラスチック生産、プラスチック廃棄、既存のプラスチック汚染の基準を対象に、プラスチック汚染の全体的なライフサイクルに取り組むことを計画しています。
- パンデミックの影響により、プラスチック汚染は著しく加速しており、使い捨てプラスチックの消費量は最大300%増加したと推定されています。
アジアとプラスチック汚染は複雑な関係にあります。欧米の政府当局はこれまで、プラスチック汚染の主な原因はアジア諸国にあるとしてきましたが、その後の調査で、最も多くのプラスチック廃棄物を排出しているのは米国であることが判明しました。その一方、太平洋諸島は世界の年間プラスチック汚染量の約1%しか占めていないにもかかわらず、最も深刻な被害を受けているという現状があります。
各国における取り組み姿勢
アジアはその規模から、世界でも有数のプラスチック汚染国だとされています。中国、日本、パキスタンはいずれも、最近の調査において、世界のプラスチック汚染上位国に挙げられています。しかし、アジアはプラスチック汚染対策において積極的な公共政策を推進していることも事実です。国連決議の主要原則の一つである、プラスチック廃棄物を最小限に抑えるために早急に自主的な行動を取るという原則は、インドの代表者によって大きく推進されたものです。
インド政府はすでに、使い捨てプラスチックの製造・販売の禁止、プラスチック廃棄物の輸入禁止など、プラスチック汚染に取り組むために複数の立法措置を講じています。中国政府は昨年、同様の施策を発表し、固形プラスチック廃棄物の違反に対する罰金を10倍に引き上げ、レジ袋の製造を禁止し、農業用プラスチック廃棄物のリサイクル率を85%に引き上げるなどしています。
全体的に、アジア圏内ではプラスチック汚染に関する法案が増えてきています。日本政府は2021年に、企業に対して60%の再生プラスチックを調達することを義務付ける新法など、主要な法案を複数実施しました。タイ政府は、2022年末までに再生プラスチック率を50%に、2027年までに100%に引き上げることを約束しています。インドネシア政府は2020年、海洋プラスチック廃棄物を5年間で70%削減することを表明しました。
パンデミックによるプラスチック汚染の加速
アジア太平洋地域は、プラスチック汚染対策において二つの大きな障害に直面しています。第一に、多くの国がこれまでプラスチック廃棄物の輸出や 輸入に依存してきたことです。例えばタイは、2021年に25万トン以上のプラスチック廃棄物を輸入しています。廃棄物の輸出入を行うということは、多くの国が何千トンものレガシー廃棄物を処理したり、新たな廃棄物処理設備を開発したりしなければならないということを意味します。
第二に、プラスチック汚染は、パンデミックとともに著しく加速しています。国際廃棄物協議会(Solid Waste Association)は、世界における使い捨て廃棄物の消費量が過去2年間に250〜300%増加したと推定しています。世界保健機関(WHO)は、パンデミックのピーク時には1カ月あたり8900万枚のプラスチック製マスクが使用され、その多くが世界中の海で廃棄されたと推定しています。
パンデミックによるプラスチック汚染の加速により、プラスチック汚染削減の重要性が改めて認識されました。環境と気候に与える深刻な影響だけでなく、(プラスチック汚染は、国単位で見た場合、世界第5位の二酸化炭素排出源となっています)、プラスチック汚染は世界中の人々の健康に悪影響を与えていることが研究で明らかになっており、最近では人間の血流からマイクロプラスチックが発見されています。
技術革新の必要性
プラスチック汚染が急速に拡大し、レガシー廃棄物が大量に発生している現状において、多くの市場は国連決議(および最終的な合意)を遵守するために新たな技術革新に頼ることになるでしょう。例えばオーストラリア政府は最近、「プラスチックを食べる」酵素を開発する新興企業に150万米ドルを投資しました。フィリピン政府も同様に、コンクリート製造業者に、プラスチック廃棄物をコンクリート原料に再利用することを奨励しており、その結果、国内のプラスチック廃棄物を最大で60%削減できると発表しています。
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この報告書はウェーバー・シャンドウィックのインサイト&情報チーム(シンガポール)が作成したものです。
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