
アジアにおけるスマートフォンのプライバシー
ウェーバー・シャンドウィックのAPAC Intelligence Bulletin(アジア太平洋地域情報速報)では、毎週、アジア太平洋地域の産業分野や市場を方向付ける重要な動向をお伝えしています。
- アジア太平洋地域の国々では、プライバシーの重要性と課題をめぐる議論が急がれています。
- アジアでは、企業データの漏洩やサイバー犯罪が頻発しているため、データ管理に対する政府・企業・消費者らの目が厳しくなっています。
- これを受けて、各国の政府は新たな法律を制定するなか、スマートフォンのメーカー側も積極的にプライバシー保護の取り組みを優先しています。
- この市場が直面している課題は、いかにしてセキュリティと利便性の両方と、プライバシーのバランスを取るかということであり、既にさまざまな利害関係者が、一つの要素をより優先しているのではないかという批判にさらされています。
ここ3ヶ月の間で、ある世界最大級のハイテク企業は、インドとオーストラリアの政府から5億米ドル近い罰金を課されました。また、アイルランド政府は最近、世界有数のSNS企業に対して約4億米ドルの罰金を命じています。
プライバシーの新たな基準
今回課せられた罰金の大半は、個人情報保護法を遵守していない企業に課されたものです。中国政府は、プライバシーを侵害するようなスマートフォンのファイナンスアプリに対して、同様の措置を近々講じると警告しています。このような規制強化の動きは、パンデミック後における、アジア太平洋地域の企業・政府・消費者が抱くデータ・プライバシーへの懸念を象徴するものと言えるでしょう。
世界の他の地域と比べて、アジア太平洋地域の利害関係者はデータ・プライバシーをより緊要な課題として捉えています。世界最大のスマートフォン利用者数を誇り、最先端のeコマース市場を有するアジア太平洋地域は、世界各地のデータ漏洩やサイバー犯罪の増加により、すでに大きな打撃を受けています。最近の調査によると、オーストラリアの成人600万人が2022年に自分の個人情報を盗まれたということが明らかになっています。
大手サイバーセキュリティ企業によると、2022年にアジア太平洋地域で発見されたマルウェア(コンピューターやその利用者に被害をもたらすことを目的とした、悪意のあるソフトウェア)の数は1150万個で、これは2021年に発見された数の3倍以上だといいます。世界有数のSNSプラットフォームは、ログイン情報を盗み取るようなマルウェアを含んでいる400のスマートフォンアプリに対する注意勧告をユーザーにしています。フィリピンでは、多くのスマートフォン利用者がフィッシング詐欺に遭っており、その多くは機密情報を利用した詐欺となっています。
ふさわしい対応策
このような状況に対し、各方面ではさまざまな取り組みが行われています。マレーシア政府はSIMカードの登録を義務付ける法律を制定し、フィリピン政府も同様の法律を検討している最中です。また、オーストラリア政府は、民間企業による深刻な情報漏洩を受け、データ・セキュリティが不十分な企業に対して5,000万豪ドルの罰金を課す法令を提案しています。
スマートフォンのメーカーにおいては、新たなプライバシー保護機能やセキュリティ機能を搭載するという対策が講じられています。2022年、世界最大のテック企業は、ユーザーがスマートフォンのアプリやメールアドレスからのデータ収集を回避できるような施策を複数導入しました。世界で最も利用されているスマートフォンのオペレーティングシステムを提供する企業は、最近ユーザーがターゲット広告を制限できる新しい機能を発表しています。
優先順位のバランス
アジアの利害関係者にとって複雑なのは、プライバシーとセキュリティと利便性のバランスをいかに取るかという点だと言えるでしょう。例えば、インド、マレーシア、フィリピンにおける最近のデータセキュリティ法の整備は、市民の権利を侵害する恐れがあるとして、プライバシー分野の専門家からも批判の対象となっています。同様に、情報収集を制限するために設計されたグローバルな技術機能も、ターゲット広告を妨げるものとして批判を浴びています。
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この報告書はウェーバー・シャンドウィックのインサイト&情報チーム(シンガポール)が作成したものです。
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