食料安全保障とインフレーション
- 気候変動とロシア・ウクライナ戦争という既存の圧力に加え、危機的なインフレにより、アジア全域では食糧不安の懸念が高まっています。
- 各国の地方自治体や政府は、目前の課題である物価上昇の対策と、より長期的な解決方法の構築に取り組んでいます。
- 各国のリーダーたちは、気候変動が食料安全保障に重大な影響を及ぼしていると認識する一方で、国によっては優先事項のバランスを取るのに苦慮しているところも。
- 一部の市場ではインフレが緩和されつつありますが、専門家によると、食料安全保障は2023年以降もアジア地域において深刻な課題になることが予想されています。
香港特別行政区、フィリピン、ニュージーランドでは、ここ数ヶ月で大幅なインフレのピークを迎えています。インド、日本、オーストラリア、マレーシア、インドネシアでは、食料品の価格高騰が報告されています。気候変動とロシア・ウクライナ戦争の影響で供給が圧迫される中、インフレという圧力がアジアの食料安全保障を更に脅かしています。
現状と今後
当面の取り組みとして、自治体や政府は、食糧不足に苦しむ人々の生活費軽減を図っています。インドネシアの国家食糧庁はパブリック・キッチンを建設し、支援を必要としている人々に18,000食を提供する計画です。東京都は、年末年始に低所得世帯にフードクーポンを配布することを決定しました。
また同時に、この地域の利害関係者たちは、より持続可能な食糧供給の形へ移行を試みています。中国の研究者たちは最近、国内生産量を大幅に押し上げることが可能なトウモロコシの遺伝子組換え改良法を発表しました。シンガポールでは、ある貯蔵庫会社が、コメの保存期間を延ばすことのできる自社技術を開発しました。
優先順位の調整
とりわけアジア太平洋地域においては、食料安全保障を脅かす要因として気候変動が指摘されています。インド、シンガポール、フィリピンの政府代表は、この地域における食糧不安の拡大を防ぐため、気候変動に対してより積極的なアクションを起こすよう呼びかけました。しかし、一部の市場においては厳しい状態が続いています。
マレーシアとインドネシアの両政府は、未開発の土地を活用して、食糧供給源の生産を高める計画を発表しました。しかし、環境活動家によると、特にインドネシアの計画は、生態系にとって必要不可欠な場所の破壊につながり、生物多様性の損失や大気汚染の傾向を加速させると指摘されています。
今後の展望
一部の市場(香港特別行政区、タイ)ではインフレが緩和しつつありますが、食料安全保障問題は2023年以降も悪化すると多くの人が予想しています。中国政府は最近、ドイツ政府との食料安全保障上のパートナーシップを発表しました。シンガポール政府は、国内の水産養殖産業の発展に向けた官民プロジェクトを立ち上げています。
マレーシアとオーストラリアでは、今後、鶏肉やジャガイモなどの主要食材が不足することが消費者と企業の間で予想されています。オーストラリアの大手食品メーカー9社で構成される業界団体は、オーストラリア政府に対し直ちに国家食料安全保障計画を策定するよう要求しています。
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