アジア太平洋地域における物流産業
ウェーバー・シャンドウィックのAPAC Intelligence Bulletin(アジア太平洋地域情報速報)では、毎週、アジア太平洋地域の産業分野や市場を方向付ける重要な動向をお伝えしています。
- 2020年以降の長期にわたる混乱を経て、アジア太平洋地域の物流部門は、パンデミック前の安定した水準まで回復しつつあります。
- 製造拠点を移転する企業や、新たな物流経路に多額の投資を行う政府など、回復には事業の多角化が重要な役割を果たしています。
- 業界では脱炭素化への取り組みを推進すべきとの圧力が強まっている中、この課題に積極的に挑んでいる企業も増えてきています。
- アジア地域の物流部門が直面している最大の課題は、将来の混乱に対応できる十分なレジリエンス(回復力)と俊敏性を構築することであり、多くの企業は、最新技術がこの部門の進化に役立つと期待しています。
シンガポールの著名なエコノミストによると、世界の輸送運賃や供給の滞りは、いずれも通常の状態に戻りつつあるとのことです。最近のグローバルレポートでは、配送サプライチェーンが2023年3月に正常な状態に戻る可能性が高いと予測されています。数年にわたる混乱を経て、アジア太平洋地域の物流部門は安定化の一歩手前まで来ています。
広がる可能性
この回復を大きく支えているのは、企業や政府による多角化の取り組みです。タイと中国を結ぶ高速鉄道が現在建設されていますが、これが完成すれば物流コストは15%削減されると予想されています。オーストラリアとシンガポールの両政府は、危機の際に必要物資の供給を確保するための作業グループを新たに結成しました。
多くの大手企業は、サプライチェーンの安定性を強化するために製造ネットワークの見直しを行っています。世界最大のテクノロジー・ブランドは、スマートフォンとコンピュータの製造を中国からインドとタイに移転する予定です。世界有数の製薬会社は最近、シンガポールの拠点を自社のグローバル・サプライチェーンの「中核」として確立しました。
環境配慮への取り組み
しかしながら、複雑な状況は続いています。アジア全域の物流業界に対し、脱炭素化への取り組みを推進するよう圧力が強まっています。例えば欧州連合(EU)では、2026年までに EUの脱炭素化基準を満たすことができない輸入品に対して課税を開始する計画を打ち出しています。
しかし、アジア太平洋地域の多くの企業は、この難題に挑むべく努力をしています。最近、オーストラリアでは多くの企業が輸送車両の完全な電気化を求めていることから、同国の大手企業100社以上が結合し同国政府に電気自動車のインフラ整備を促進するよう請願しています。インドの大手トラックメーカーは、液化天然ガス(LNG)をはじめとする代替燃料に移行する計画を発表しました。
未来に向けて
企業や政府にとってサステナビリティに対する圧力は、物流産業を複雑にする要因のごく一部に過ぎません。最近の米中貿易摩擦、オーストラリアとインドネシアにおける洪水の増加、ロシアによるウクライナとの戦争などの要因はすべて、近い将来、物流産業に影響を与える恐れがあります。ブランドや政府は、このような激動から物流産業を守ろうとしているのです。
多方面において、テクノロジーは重要な投資分野です。フィリピンの業界リーダーたちは、同国のサプライチェーンの全インフラをデジタル化するよう政府に呼びかけています。インド政府が最近発表した「国家物流政策」は、インドの物流分野におけるデジタルトランスフォーメーションを促進することを主眼に策定されています。世界中の運送会社が、二酸化炭素排出量を削減するために新たに開発されたバイオ燃料への切り替えを始めています。
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この報告書はウェーバー・シャンドウィックのインサイト&情報チーム(シンガポール)が作成したものです。
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