アジア太平洋地域における事業用不動産
ウェーバー・シャンドウィックのAPAC Intelligence Bulletin(アジア太平洋地域情報速報)では、毎週、アジア太平洋地域の産業分野や市場を方向付ける重要な動向をお伝えしています。
- 事業用不動産市場は、アジア全域でパンデミック前の水準に戻りつつあるようです。
- しかし、コワーキングスペースや関連事業が拡大するなど、オフィス勤務に対する人々の意識にも変化が見られます。
- 社員がハイブリッドワークやリモートワークを好む中、企業は新たな方法で人材を獲得しようと、不動産の活用方法を模索しています。
- 今後は、金利の上昇や、CO2排出量に配慮した金融政策などの影響により、この分野の回復がさらに遅れる可能性もあります。
あるグローバルな不動産会社は、2024年までにインドのベンガルールに1400万平方フィートのオフィススペースを増築すると発表しています。シンガポールでは、2022年上半期の商業用不動産への投資が78%も急増したそうです。アジア太平洋地域全体で、商業用不動産市場はパンデミック後の回復期を迎えています。
さまざまな出資者
この成長は、アジア地域のコワーキング部門が拡大したことが一因となっています。例えば、マレーシア、香港特別行政区、オーストラリアの大手コワーキング会社が最近合併し、アジア最大のコワーキング企業が誕生しました。インドでは、2022年上半期の新規事業用不動産の20%がコワーキングスペースによるものでした。
このような変化は、従業員の意識と雇用者側の要望との摩擦関係によるものです。世界中の企業が従業員にオフィス勤務への復帰を奨励する一方で、調査では、従業員の大半がハイブリッドまたはリモートワークの形態を好むことが一貫して報告されています。
香港特別行政区の会社員を対象にした最近の調査では、89%が従来のオフィス勤務よりもハイブリッドワークやリモートワークを希望していることが分かりました。オーストラリア第二の都市では現在、都心部のオフィスの稼働率は39%という報告もあります。
ハイブリッドな解決策
韓国の大手IT企業は最近、社員が、事前に承認された休暇先で一回につき最大5日間、リモートで仕事ができる選択肢を提供しました。韓国の別のIT企業は、2021年にソウルオフィスの全従業員を独自のメタバース型プラットフォームへ移行させています。
企業の多くは、オフィスでの体験や福利厚生を充実させることで、社員の出勤率や定着率を向上させようとしています。標準レベルの事業用不動産から、ハイエンドな体験へのシフトは、「質への逃避」とも称され、専門家によると日本、シンガポール、韓国、オーストラリアにおいてその状況が確認されているとのことです。
波乱の可能性
オフィスに対する意識の変化は、この地域の商業用不動産部門にネガティブな影響を与えるまでにはまだ至っていません。アジア太平洋地域において、商業用不動産投資は、工業生産業の発展により第2四半期に大幅に減少したものの、事業用不動産への投資は9%増加しています。
しかしながら、今後予想される混乱は、この部門の継続的な回復を脅かす恐れがあります。アジア太平洋地域の多くの市場で金利が上昇するなかで、不動産投資会社や投資ポートフォリオにおいて新たな課題が予想されます。一方で、「金融に係る排出量(ファイナンス・エミッション) 」に基づく金融政策へと移行することも考えられ、この分野は著しく変貌を遂げる可能性を秘めています。
マレーシアの銀行は最近、今後の融資について、「融資に関わる温室効果ガス排出量」を査定基準に含めることを発表しました。オーストラリアの銀行部門を対象とした「金融に関わる排出量」についての最近の調査では、同国の4大銀行が近い将来、数十億ドルの罰金と関連費用を課せられる可能性があることが判明しています。
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この報告書はウェーバー・シャンドウィックのインサイト&情報チーム(シンガポール)が作成したものです。
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