
アジアにおける人材採用と人事事情
ウェーバー・シャンドウィックのAPAC Intelligence Bulletin(アジア太平洋地域情報速報)では、毎週、アジア太平洋地域の産業分野や市場を方向付ける重要な動向をお伝えしています。
- パンデミックの影響でアジア産業の多くが、安定した経営に必要な人材を確保し、定着させるのに苦労しています。
- この混乱により、政府の方針や従業員の要望、人材の採用方法などが変化しつつあります。
- 人材採用に特化した最新技術のソリューションやスタートアップ企業への投資が拡大しています。
- その一方で、この地域の一部では、人材紹介や職場環境に付随する犯罪も発生しています。
アジア太平洋地域では、多くの企業が労働者の確保と定着に苦慮しています。インドのデリー州政府は現在、17,000人以上の人材を募集しているそうです。シンガポール政府関係者によると、需要に対応するには、同国の航空部門は年末までに4,000人の追加雇用が必要になるとのことです。オーストラリアでは、この2年間でエンジニアの欠員が176%も増加したと言われています。
多方面からの課題
人材紹介会社や人事担当者の抱える課題は、さまざまな要因に由来しています。多くの分野において主な争点となっているのは職場環境です。ニュージーランドの消防士組合は最近、人材不足と週86時間労働に対する抗議としてストライキをしました。今年初め、日本の労働基準局は、2019年に起きた公共放送局職員の死亡は、過労が原因であったことを公式に発表しています。
他の分野では、人口不足、研修不足、異文化に対する偏見といった障壁が課題となっています。オーストラリアの非営利専門機関、豪州技術者協会(によると、同国にはエンジニアが数多く欠員しているにも関わらず、エンジニア資格を持つ移民の約49%が偏見により失業状態にあることが明らかになっています。マレーシア政府は、バングラデシュからの労働者によって製造業の人手不足を緩和することを目指しています。
さまざまな解決策
人材採用の問題解決に向けて、関係者はさまざまな取り組みを行っています。多くの国において、外国人労働者の雇用が大きな優先事項となっています。シンガポール、オーストラリア、マレーシア、フィリピン、タイ、ニュージーランド、韓国の各政府は最近、移民労働者に関する政策を改訂しています。香港特別行政区のファンドマネジメント企業の20%は、海外からの人材を獲得するためにハードシップ手当(*)を支給しているそうです。
*ハードシップ手当:海外駐在員に対して支給する手当で、生活水準・様式や社会環境、気候風土の違い等から生じる肉体的・精神的負担等を勘案して支給される。
特に企業においては、さまざまなアプローチが模索されています。中国のあるオンライン採用システムは、過去1年間に8万社以上の企業向けに、ライブストリーミングによる採用活動を行ってきました。フィリピンの業界団体は、同国のアグリビジネス分野における、スキルや役割のミスマッチを特定することができる新たな調査への出資に合意しました。
さまざまな解決策を求めて、アジアでは人材採用関連のスタートアップ企業への投資も活発化しています。シンガポールを拠点とする人材採用の技術系スタートアップ企業は、今回の資金調達ラウンドで新たに5,000万米ドルの資金を確保しています。インド企業を対象とした最近の調査では、68%が採用・人事におけるAIの活用がより高い精度と効率性につながると考えていることが報告されています。
新たな脅威
しかし、残念なことに、人材採用をめぐる動きが活発化し、緊急性が高まったことで、人材採用に関連する犯罪が各地で多発しています。フィリピン、香港、インド、タイの各政府は現在、人材紹介詐欺の取り締まりを行っており、中には国際的な人身売買に繋がっているケースもあると言われています。オーストラリアでは、ある大手のホスピタリティ・ブランドが、不正行為によって職場における安全対策を回避したとされ、法的措置を受ける事態となっています。
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この報告書はウェーバー・シャンドウィックのインサイト&情報チーム(シンガポール)が作成したものです。
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